町田そのこ『月とアマリリス』あらすじ ネタバレ タイトルの意味は?

このブログはアフィリエイト広告を使用、Amazonアソシエイトに参加しています。

はじめに

町田そのこさんの『月とアマリリス』のネタバレです。

『月とアマリリス』作品概要

町田そのこ(まちだ そのこ)による最新長編小説『月とアマリリス』は、2025年2月27日に小学館から刊行されたサスペンス巨編です。
これまで人間ドラマや恋愛作品で高い評価を獲得してきた著者が、初めて本格的なサスペンス作品に挑んだ意欲作として注目されています。

発売日・基本情報

  • 書名:月とアマリリス
  • 著者:町田そのこ
  • 出版社:小学館
  • 発売日:2025年2月27日(木)
  • 価格:1,870円(税込)
  • ジャンル:ミステリー/サスペンス/文学

月とアマリリス1683円kindle版購入はこちら

町田そのこさんは、2021年に『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞し、その後も『星を掬う』『宙ごはん』などで高い評価を受けてきた作家です。
本作はその作風とは異なる“骨太のサスペンス”となっており、読者からも大きな関心が寄せられています。

関連記事 『52ヘルツのクジラたち』ネタバレ記事はこちら↓

あらすじ

北九州市郊外の高蔵山で、一部が白骨化した遺体が発見されるというニュースが流れます。
遺体のそばには、花束と思われるものが埋められており、死因ははっきりしないものの、不審な部分が多いものでした。

このニュースを知ったのは、地元のタウン誌でライターとして働く 飯塚みちる
かつて週刊誌で記者をしていた彼女の元に、かつての上司であり編集者の堂本宗次郎から取材の誘いが舞い込みます。
しかし、みちるには過去に大きな“記者としての挫折”があり、正直なところもう二度と記事を書きたくないという葛藤がありました。

遺体のポケットからは部分的に読み取れるメモが見つかります。
そこには、「ありがとう、ごめんね。みちる」と書かれており、みちるは深い動揺を覚えます。

果たしてこの白骨死体は誰なのか。
そして“みちる”という名前が残した文字の意味とは何なのか。彼女は再び事件の真相を追い始めます。

読みどころ

『月とアマリリス』は、サスペンスの緊張感と文学的な人物描写を両立させた作品です。
ミステリーとしての面白さはもちろん、主人公みちるの

  • 過去の挫折からの再出発
  • 真実を追うジャーナリズムへの葛藤
  • 自分の名前と出来事の関係

という個人的な旅路が、読者の共感を呼び起こします。

初期の展開で描かれる遺体の発見は、単なる事件の始まりではありません。過去の自分自身と向き合い、同時に社会や他者の痛みを見つめ直す“心理ドラマ”としても物語は深く続いていきます。

『月とアマリリス』ネタバレ

『月とアマリリス』あらすじ・結末まで徹底解説

※以下は、町田そのこ『月とアマリリス』の結末を含むネタバレです。
未読の方はご注意ください。

物語は「埋める」場面から始まる

物語は衝撃的な場面から始まります。
三人で“ばあさん”を埋めるシーン
その中の一人である〈私〉は、満月を見上げています。

この場面の意味は、読み進めるうちに少しずつ明らかになっていきます。

主人公・飯塚みちると、追うことになった事件

主人公は 飯塚みちる
福岡県北九州市を拠点に活動する、タウン誌のフリー取材ライターです。実家暮らし。

ある日、元恋人であり、元上司でもある 堂本宗次郎から電話が入ります。
二日前、高蔵山で遺体が発見された事件を追ってほしい、という依頼でした。

遺体のスウェットのポケットには、
「ありがとう、ごめんね。みちる」
と書かれたメモが入っていた――それが理由です。

この言葉に、みちるは強く動揺します。

みちるが記者を辞めた理由

みちるは10か月前まで、出版社「鶴翼社」の週刊誌『週刊ツバサ』で記者をしていました。

彼女が記者を辞めたきっかけは、
中学生・吉高真希の自殺事件の取材です。

SNSに裸の写真を投稿されるいじめが原因とされ、
みちるは加害生徒5人を突き止め、記事にします。

しかしその後、
加害者の一人・西が飛び降り自殺未遂を起こし、
両親が遺書を公開します。

そこには、西自身もまた裸の写真を撮られ、脅され、
いじめに加担させられていた事実が記されていました。

「自分の記事が、誰かを追い詰めた」
その罪悪感から、みちるは記事を書けなくなり、実家へ戻ります。
宗次郎とも別れました。

高蔵山の遺体と、連続事件の兆し

事件の調査には、宗次郎の大学時代の友人で警察官の 丸山佑が協力します。

遺体と一緒に花が埋められていたことから、
「葬儀費用を払えない貧困層による遺棄」という見解も出ます。

メモが和菓子屋の包装紙だったことから、
みちるはそこを手がかりに取材を進めていきます。

その過程で、詐欺師に騙されるなど、
「事件に吸い寄せられるような人々」とも出会っていきます。

スミという女性、そして第二の遺体

情報提供から、
高蔵山の遺体が 吉屋スミである可能性が浮上します。

スミの住んでいたアパートを突き止め、
大家の 長野かるたに辿り着いたみちるは、
スミの部屋で若い女性の遺体を発見します。

被害者は 菅野茂美
絞殺されていました。

この時点で事件は、
連続殺人・連続遺棄事件として扱われるようになります。

浮かび上がる「美散(みちる)」という存在

取材を進める中で、
みちるは小学生時代の同級生・吉永と再会します。

学年一可愛かった少女の名前が 伊東美散(みちる)だったことを知り、
高蔵山のメモに書かれた「みちる」との一致に違和感を覚えます。

美散の人生は、壮絶でした。

  • 実母は3歳で事故死
  • 後妻の子どもは幼くして病死
  • 家族から事実上“外された”存在
  • 逃げ場は近所の老婆・大平鶴代の家と猫のダイフクだけ

みちるは、美散の行方を追い始めます。

男の正体

家原崇(タカハラ)という男の正体

美散は高校の同級生 タカハラと結婚し、寿退社していました。
しかしタカハラの正体は、
家原崇――独居老人を狙う詐欺犯でした。

さらに彼は 邑地和彦むらじかずひこという偽名も使っていました。

家原は、
スミを詐欺の被害者にし、
美散を共依存関係に引き込み、
さらに茂美を「ATM」として連れてきます。

壊れていく日常

壊れていく日常と、殺される茂美

スミは老衰で亡くなります。
二人の若い女性を「妹」だと思っていたスミ。

遺体を埋めたのが、物語冒頭の場面でした。

10月4日、
高蔵山で遺体が発見された日に、
茂美は警察に行こうとします。

それを止めた家原は、
茂美の首を絞めて殺害

死の間際、
茂美が美散に向けた言葉は「助けて」ではなく、
「逃げて」でした。

逃亡、そして

美散は家原を刺して逃げます。
殺意ではなく、追ってこられないようにするためでした。

彼女が通報も出頭もしなかった理由は、
これまでの苦しみと、
スミと茂美、二人の命を無駄にしたくなかったから。

最終的に、美散は逮捕され、
懲役6年の判決を受けます。

みちるが書いた「手記」と、その先

みちるは、
友人として美散の話を聞き、手記として記事を書くことに成功します。

その記事は、物語の中でそのまま掲載されます。

記者として再び「真実を書く」ことを選んだみちる。
一度は記者を辞め、
犯罪加害者家族の支援施設で働くことも考えます。

しかし、
「義父から性的暴行を受け続けた少女の自殺」というニュースを目にし、
再び 鶴翼社に戻る決意をします。

月とアマリリスが象徴するもの

アマリリス会――
小学生時代の、ささやかな女子会。

孤独な人間が、
「ひとりではない」と感じられる場所。

物語の最後では、
井口と長野がコミュニティカフェを作る計画を立てます。

ひととひとを繋ぎ、
孤独なひとを生まないようにする。
辛さを引き出せる場所をつくる。

『月とアマリリス』は、
犯罪の物語でありながら、再生の物語でもありました。

『月とアマリリス』タイトルの意味を考察

――「おしゃべり」と「黙って見ている世界」

町田そのこの『月とアマリリス』というタイトルは、
読み終えたあとに「どういう意味だったのだろう」と考えたくなる、不思議な響きを持っています。

物語の中で、
「月」や「アマリリス」という言葉が、何度も説明的に使われるわけではありません。
だからこそ、読者のあいだで
タイトルの意味を考察したくなる人が多いのだと思います。

では、このタイトルにはどんな意味が込められているのでしょうか。

アマリリス=「おしゃべり」の象徴

まず「アマリリス」について。

物語の中で印象的なのが、
小学生の頃に行われていた アマリリス会 です。

アマリリス会は、

  • お菓子を持ち寄って
  • 評価も結論も出さず
  • ただおしゃべりをする

そんな、ささやかな集まりでした。

大人になると、
「意味のある話」「役に立つ話」「正しい話」ばかりが求められます。
でもアマリリス会で行われていたのは、
ただ話していい、という時間でした。

この物語で多くの悲劇が起きた理由は、
「誰も話さなかったから」ではありません。
話してもいい場所が、なかったからです。

だからアマリリスは、

声を出してもいい
弱さを見せてもいい
顔を見て話してもいい

そんな「おしゃべりの場」の象徴として、
タイトルに置かれているように感じます。

月=冒頭で美散が見上げた満月

一方、「月」。

物語の冒頭で、
美散は“ばあさん”を埋めたあと、満月を見上げています。

月は明るく、すべてを照らします。
けれど、

  • 何も語らず
  • 何も裁かず
  • 何も救いません

ただ、そこにあるだけです。

それはまるで、

  • 周囲の大人たち
  • 社会
  • 見て見ぬふりをしてきた人たち

の姿にも重なります。

誰かが苦しんでいても、
誰かが壊れていっても、
世界は何事もなかったように続いていく。

美散が見た満月は、
「すべてが起きたあとも、変わらず存在する世界」
を象徴しているように思えます。

月とアマリリスは「対」になっている

この二つを並べて考えると、
タイトルがよりはっきりと見えてきます。

  • 月:黙って見ている世界
  • アマリリス:声を出してつながる世界

月は、上から静かに照らすだけ。
アマリリスは、同じ目線で集まって話すこと。

この物語は、
沈黙の中で起きた悲劇と、
対話によってかろうじてつながる希望を描いています。

だから『月とアマリリス』というタイトルは、

黙って見ているだけの世界と、
顔を見て話そうとする世界

その対比を示しているのではないでしょうか。

「対話しよう」という、静かなメッセージ

ただし、この作品は
「話せばすべて解決する」とは言っていません。

話そうとしても、
聞いてもらえないことがある。
立場や力の差で、対話が成立しないこともある。

だからこそ町田そのこは、

対話しなさい

ではなく、

対話できる場所を、なくさないでほしい

という、祈りに近いメッセージを
タイトルに込めたように感じます。

タイトルは、読み終えたあとに効いてくる

『月とアマリリス』というタイトルは、
読み始めたときよりも、
読み終えたあとに、じわじわと意味を持ちはじめます。

月の下で起きたことを、
アマリリスのような「おしゃべりの場」に
引き戻そうとする物語。

そう考えると、このタイトルはとても静かで、
とても優しい名前なのかもしれません。

月とアマリリス1683円kindle版購入はこちら

おわりに

この作品が突きつけるのは、

  • 正しさとは何か
  • 記事を書くという行為の暴力性
  • 誰かを「救う」ことの難しさ

そして、それでもなお
真実を書き続ける意味です。

ここまで読んでいただきありがとうごさいました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました